H’s ある株ホルダーのFP日記

株ホルダーとして考えた事、FPとして伝えたい事を不定期に書いていくつもりです。

金融資産課税を強化する議論

自民党の総裁選で、高市候補が金融資産課税の強化に触れている。インフレ率2%を達成した暁には、配当課税とか譲渡益課税を現行20%から30%へ上げていく事を想定しているようだ。

背景にあるのは貧富の格差拡大を解消したいって事。2000年代に伸長した契約社員や派遣による働き方の増大、そして現在のコロナ禍における想定外の離職が追い打ちをかけているのも事実だろう。報道によれば、アメリカでも上位1%の人が29%の資産を握っているとか。確かに格差の拡大が政情不安を引き寄せてしまうようではいけない。

<9/15頃の日経新聞より>

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ただ、法人課税と異なり、個人の所得税は所得を10種類くらいに分けており、あるもの(ex.給与所得や事業所得)は総合課税で累進課税を採用している。別のもの(ex.譲渡所得)は分離課税を採用している。証券投資であれば特定口座を開設して利益の20%を源泉徴収して終了する人が多いだろうが、制度としては複数証券口座の損益や過年度損失を繰越す事で損益通算をする事も可能となっている。また、配当所得は源泉分離課税で終了(申告不要)、総合課税、分離課税の3つから選択する道が用意されている。先ずはその体系からして複雑だ。

そうした課税体系が整備されてきたプロセスやその経緯を知らないので迂闊な事は言えないが、金融資産課税をする事の妥当性や公平性もキチンと議論して欲しい。それに証券投資で大きく儲けているのは政治家なのだろうし、自分達の懐が痛むような改正をそうやすやすと行う事はないようにも思う。穿った見方をするようだが、ロバート・ヤマザキ「金持ち父さん、貧乏父さん」で主張しているのは要するにそうした構図なんだと思った。

さて、話を元に戻そう。金融資産課税の見直しをする場合には以下をシッカリと考慮願いたい。

(1)譲渡所得

かつて、(正確な年を覚えていないが)25年くらい前に殆どの投資家はその売買益について非課税だった。年間に一定回数以上の売買を行った人だけが課税対象者になっていた認識だ。その後、利益の20%か売却代金の1%を選択制で納税する過渡期が訪れた。で、利益の10%を納税する時代が2013年まで続き、それ以降は20%(所得税15%、住民税5%)になっている。

濡れ手で粟の状態で儲かる不労所得ならば、高い税率もあっていい。ただ、証券投資は常に儲かるものではない。塩漬けして売るに売れない株もあれば、売却して大損する株もある。それも前年に大儲けして20%納税したのに、翌年になって大暴落に巻き込まれてしまい前年利益の2倍の損を被る事だってあるかも知れない。それは、証券会社の収益が昔から安定していない事でも容易にチェックできると思うのだ。

また、総合課税される所得に関しては累進税率になっているので、低所得者にも一律20%が課税されている訳ではない。課税所得金額330万以上の部分に対して20%だ。しかも、給与所得控除や基礎&扶養控除、社会保険料控除などいろいろな控除が認められているので、収入金額と比べて課税所得金額が大きくシュリンクしていく構造になっており、額面通りに税率が掛けられている訳ではない。

<参考:所得税の税率表>

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(2)配当所得

手前で触れたように配当所得の課税方法は選択できる。銘柄ごとに選べるし、(試した事はないが)配当支払い時期ごとに選べる筈だ。選べる事は自由でありがたいが、考える余地が大きすぎて面倒でもある。ここに関してはどうすべきかまだ見えていない。

ただ、配当の税率をこれ以上upしてしまうと、過剰に徴収してしまう事例が更に増えてしまうのではないか。一般のサラリーマンで配当所得控除や外国税額控除を使って還付申告するケースは少ないと思われる。と言うことは今でも本来の税額以上のモノを納め過ぎている人がいる。所得税率で23%(課税所得金額695万超)や33%(課税所得金額900万超)を適用している人は人口比で見るとかなりの少数派だ。そのレベルまで源泉徴収税率を上げる事は果たして妥当なのか。

また、所得間のバランスを保つ点で、配当所得の税率が上がるのであればおそらく利子所得も揃えて30%に上げていくのだろう。かつてもそうした制度移行をしていたと思う。今でこそ超低金利時代で目ぼしい銀行利息は付かないが金融課税としては証券と銀行で足並みを揃えていく事になるのが自然だろう。

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他方、立憲民主党も明るい話題を振りまいている。年収1000万円以下で所得税を非課税にするとか、消費税を期間限定で5%に引き下げるとか。国政選挙を直前に控えているので気持ちは分かる。それで国家財政が緩まないならヤレばいい。まあその前に政権政党に復帰できる(orさせてもいい)ような安心感・現実感がないといけない。それ以上考える必要は無さそうだし、こうした政策がふわっと出てくる時点で拙速だとか軽率過ぎるんじゃないかと疑ってしまい、政権が遠のく印象を受けてしまう。

<9/25頃の日経新聞より>

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