H’s ある株ホルダーのFP日記

株ホルダーとして考えた事、FPとして伝えたい事を不定期に書いていくつもりです。

資産所得倍増ってなんだろう

資産所得倍増って何を言わんとしているのだろうか。造語を作るのもたいがいにした方がいいと思う。岸田総理がロンドン・シティで「もっと日本に投資して」と話している時に、英国企業に日本へ工場や研究所を作るようにお願いしているのかと勘違いしていた。大丈夫かと心配してしまったが、外人にもっと日本の金融市場で買ってくれ、と言いたかったのか。

<6/8東京新聞サイトより>

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※出典
https://www.tokyo-np.co.jp/article/182107

言葉でイメージを先行させておいて後で混乱を招くのは勘弁して欲しい。それがホンネだ。また、経済格差の拡大が社会問題になっている時期に、そうした問題をより深刻化させてしまう懸念はないのだろうか。住民税非課税世帯に10万円を配れば4630万円が溶けてしまうし、なかなか思い通りにはいかない。

まあ折角の造語なので少し考えてみよう。

(1)ここ26年間の成長の軌跡

まずはネット検索して見つけた文章を紹介する。

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1994年度を100とした場合、26年後の2020年度時点で家計金融資産は167.2、雇用者報酬は107.9、家計財産所得は58.4である(図表)。「所得倍増計画」も近い将来では実現性に乏しい計画だったが、「資産所得倍増計画」はそれに輪をかけて実現性が乏しいのである。
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※出典はNRI野村総研
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2022/fis/kiuchi/0531

素直に読めば、金融資産や雇用者給与を倍化するのに四半世紀では足らなかったって事。どうみても1960年代の池田勇人総理の時代と競いようがないって事だ。まさか岸田政権が26年続くのはあり得ないし無茶だ。

もっと恐ろしい事実もある。家計財産所得がなんと26年前の半分強に落ち込んでいる事だ。これは長期的に低金利と超金融緩和が続いているので預金利息が付かなくなった事を意味している。利息だけなら半分どころか10分の1、100分の1まで薄くなっている筈だが、半分で留まっているのは多少なりとも証券投資に向かった事、上場企業の配当水準が上がってきた事が関係しているのではないか。

(2)金融所得を倍にするには

資産所得倍増を字義通りに読めば、資産が倍になるわけではなく、資産から得られる所得が倍になるって事。もし銀行預金であれば金利を倍にしてくれれば素直に利息収入も倍になる。でも、年0.01%(だったかな、でも間違っていても大勢に影響ないのが哀しい)が年0.02%に上がって何が嬉しいのだろうか。金利を100倍にして年1%にするだけでも1994年当時の金利にはとても追いつかないのではないか。

株式であれば、配当金が2倍になるとインパクトがあるけどこれは全ての企業に対して期待するには無理がある。先ずは確実に企業収益が上がっている事、配当性向がそこそこ低くて、しかも積極投資するアテがない会社に限られそうだ。もちろん、株価が2倍になってくれるのに越した事はなく、まるまる譲渡益になるので笑ってしまう。

利子所得であっても配当所得でも金利が倍化する事で所得税法人税も倍化するので、国としてもそれなりの実入りを期待できる。ただ、その分だけ国債の利払いも増えてしまうので、政府としてはずっと低金利をkeepしたいのだろうけど。そうなると、1ドル140円、150円と1980年代後半の真空地帯まで円安に落ちて行かないと金利は上げないのか。

(2)NISA制度の改善希望

【A】損失が発生したら譲渡損失として認識して欲しい事

NISA枠で購入した株式の配当所得も譲渡所得も5年間に限り非課税となる。ただ、想定外に株価が値下がりして大きく損失を被る可能性もある。通常の口座で買い付けていれば、譲渡損を他の譲渡益や配当所得と相殺できるが、NISA枠で購入した銘柄は損失相殺ができない。投資を促す立場で導入した制度なのに、そのままその損を被るだけでnettingできないのでは優遇制度と呼べない。

かつて1000万円の非課税購入枠があってその範囲内であれば非課税って制度があった。もう覚えていないけど、あの当時はこんな片手落ちな制度ではなかったんじゃないか。

【B】ロールーオーバーの手間を改善して欲しい事

これは投資する側としてはさしたる事ではない。ただ、この運用を徹底するために証券会社の窓口では無駄な作業が発生している。逐一顧客の意向を確認していくのだ。郵送と電話と、そんな事に双方で労を費やすのは無駄だ。

もっと言えば、5年間で区切る事にどんな意味があるのか甚だ疑問なのだ。5年分の配当は非課税でそれより先は課税するって建付けは、ロールオーバーしてしまえば変わらないし5年以内に売却を求める制度に違和感がある。ちなみに、NISAのモデルとなった英国ISAでは投資期間の制限を設けていない。

(3)DCやiDeCo制度の改善希望

【C】非課税と言いつつ受取時には課税される事

iDeCoは拠出時と運用時において非課税だ。拠出時には確定申告する事で所得控除を受けられるメリットもある。でも、60才以降にiDeCoで運用してきたお金を引き出そう(給付を受ける)とすると課税される。これがEETだ。Eはtax-exempt(課税免除)、Tはtaxed(課税)を意味する。

しかも、受取方によって税金の扱いが異なるので、どちらが有利なのか考える必要がある。一括受給すれば退職所得、年金として分割受給すると雑所得となる。某セミナーでは90%の受給者が前者を選んでいると聞いた。もし40年勤続した場合に退職控除が2200万円(800万+70万×20年)あるものの、もし退職金でその枠を使ってしまっていれば、DCを一時金で受け取るとまるまる課税対象額に含まれる事になってしまう。

しかもDCやiDeCo制度が創設されてから大金をこの制度で運用してきた世代が殆どいないため、最後にドッと課税される可能性がある事があまり意識されないでいる。私も、この話を知らなかったが銀行のiDeCo制度のZoomセミナーを通じて焦った事がある。この点をしっかり押さえておかないと、今後20~30年も積立を続けていた世代で想定外の課税を伴うケースがありそうだ。

そのため、EETの出口の課税方法をクリアなものに変更願いたい。出口がグレーなままで「非課税」をウリにして拠出を広げていくのは違和感があるのだ。

【D】退職時に売却を強いられる事

会社を転職すると、ポータブルで移管できるって聞いたがそれは本当だろうか。個人的には退職後にすぐ転職しなかったので、DCに預けていた投資信託は全て解約された。しかも、退職後に売却しようとしたらロックされていて、全てはDC運営側の処理日に合わせて一括で売却されてしまい、タイミングを計って調整する事もできなかった。

確かに在職中に時期を分散して徐々に売却できれば良かったのだろうが、勤務で多忙な時期にそこまで気が回らなかった。退職後に一定期間を設けて自分のタイミングで売却できるようにして欲しい。

【E】いざと言う時に引き出せない事

会社員している時にDC制度で気になっていたのは、60才まで引き出しできない制度設計なので、万一の場合にこの資金を使えない点だ。

私が勤めていた会社ではDB(確定給付年金)の時代に年金転貸融資制度があったのか未確認だったが、優良企業の福利厚生ではこうした制度が用意されていた。例えば病気や事故など急に必要になった場合、会社から年金資産を担保にして借り入れを起こせる制度だ。この制度があれば銀行預金の当座貸越のように流動性を確保できるのだ。

ただ、こうした制度を見聞したのは90年代前半だったので、最近でも同様の制度があるのかハッキリしない。ネット検索で「年金住宅融資」は見つけたのだが、平成17年を以って新規受付を終了と書かれていた。

DCやiDeCoにおいては、年金資産を担保とした借り入れは想定されていない。せっかく積み立てておいても緊急時に全くアテにならない存在では、運用拡大の足枷にもなりかねない。受給開始年齢を60才から後ろ倒ししようとする状況下にあって、制度普及を目指すのであれば改善の余地がある。

 

【2022.6.15追記】DCやiDeCo制度の改善希望の3点目として「【E】いざと言う時に引き出せない事」を追加しました。
【2022.7.13追記】NISAの5年区切りについて【B】に文章を追記しました。