H’s ある株ホルダーのFP日記

株ホルダーとして考えた事、FPとして伝えたい事を不定期に書いていくつもりです。

社会保険ネタ2024春(国民年金の納付延長と少子化負担金)

国民年金の納付期間延長や少子化対策負担金など社会保険にまつわる話を2024年春にちょっと考えてみたい。

【註】4/19に投稿した記事から一部の話題(社会保険料にまつわる部分)をこちらに切り出して、一部加筆しました。理由は税金と社会保険の話題が混在してしまい1本の記事として紛らわしくなったためです。

 

(1)国民年金の納付期間延長

国民年金保険料は20才から60才まで納付して、65才以降に受給できる。長年そう信じてきた制度に見直しの動きが出ている。納付期間を65才まで延長(20才から65才までの45年へ)することが議論されている。仮に、月1.6万円とすると5年延長で約96万円の負担増になる。

<ネットで見つけたテレ朝サイトの画像>

 

※出典

国民年金支払い期間 40年から45年に延長?「99万円負担増」試算も…受給額は? (tv-asahi.co.jp)

https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900000812.html

TV各局の報道番組では支払った分だけ受給できるのかだけが論点になっているようだ。確かに個人的に気になるポイントで、視聴者にダイレクトに訴えかけるテーマである。でも、果たしてそれが主眼でいいのだろうか。

これは60才定年制を65才へ移行・延長していく、更には将来的に70才へ延ばしていく中で妥当な動きとも云える。年金受給の開始年齢を70才よりもっと先、75才まで繰り下げられるよう既に制度が変更されている。

WPP(次項で補足)の最初のPに相当する制度の1つがiDeCoだ。iDeCoは積立期間が60才迄だったが、それを65才まで延長する動きも国民年金保険料の納付期間延長と同じシナリオに沿っているものだと考えていい。ただ、TV報道を聞いていると「年金受給額の不足を懸念して」と前置きされており、些かズレているのではないかと疑ってしまう気持ちもある。不安を煽る報道は訴求効果があるけれども、社会の変化をまず最初に共通認識としてアナウンスしておくべきではないか。

5/11日経新聞「マネーのまなび」を読んで、5年間追加納付することで年金受給額が年102,000円増えると分かった。ただ、モヤモヤしてきたこともある。60才以降も勤める人がいる。彼らは厚生年金に加入して基礎年金も増える筈だ。比較的年金に余裕のある彼等にも約10万円を加算する必要があるのだろうか。逆に、60才で仕事を辞めてもあと5年の追加負担が必須なのか。もし国民年金だけでは大変って主張が表向きのものならば60~65才では選択的導入でも構わないのでは、と考える。これが穿った見方であればやっぱり趣旨説明が中途半端だと感じる。

 

(2)WPPとは何か

前項でWPPと書いた。WPPというワードを聞いたことがあるだろうか?

私はある勉強会の席で初めてこの言葉を耳にした。ここでその言葉について補足しておこう。

Work Longer(60才以降も長く働く)、Private Pension(私的年金)、Public Pension(公的年金)の略。その意味するところは老後の3段ステップにある。

・60才を過ぎても65才(若しくは70才)までなるべく長く働きましょう。
公的年金を受給するまでの間にブランクがある方は、iDeCoなど個人的に年金に相当する資金をあらかじめ積み立てておいて収入を補いましょう。
公的年金受給は75才まで繰り下げられるので、なるべく公的年金の受給を繰り下げて受給金額を増やしましょう。

勿論、これは総論として正しい。ただ、モヤモヤと湧いてくる疑問や異論があるだろう。以下に2点ほど挙げてみよう。但し、ここではそれ以上の深い追いはしない。

【健康面】
1つは働く能力と健康年齢にギャップが生じないかという懸念。いつまでも働きたいと願う気持ちと健康面でリアルに何歳まで働けるのかは別物である。例えば肉体労働であれば筋肉が、PCなどデスクワークであれば視力が落ちていくことは否めない。経営者であれば適確に判断を下す能力や気力が年齢に応じて衰えていくだろう。そして、それを自分で気づくよりもむしろ周囲が先に心配するケースの方が多いのではないだろうか。

【税引後の手取り金額】
もう1つは金額の多寡だ。確かに75才まで繰下げ受給する事で受給金額(額面)は最大84%増やすことができる制度設計になっている。65才以降で1ケ月遅らせるごとに0.7%増額されるので、0.7%×12ヶ月×10年で84%となるのだ。ただ、繰下げを選択されている方はかなりの少数派である。正確ではないが数パーセントだと聞いたことがある(裏付けを取れていないので取扱注意)。しかも、税金・社会保険料を引かれた後の手取り金額が同じ伸び率になる訳ではないことにも注意が必要だ。

 

(3)少子化対策の負担金

少子化対策に必要なお金を社会保険料として追加徴収すると言う。最近のニュースで時々出てくる話題だ。月500円がホントなのか、「負担が増えない」説をどう解釈すればいいのか言葉のマジックも悩ましい。「負担金」なのか「支援金」なのかまだ言葉も定まっていないようだ。

所得税累進課税で所得が増えるにつれて税率も上がっていく。それに対して、住民税は定税率負担であり、社会保険料も上限付きの定率なので、たかが500円や1000円と言っても、低所得者ほどその負担は大きくなる。

岸田総理はその辺の事情も分かった上で社会保険料に上乗せすることを選択したのだろうか? 企業は社会保険料の半分負担(折半)することになるが、昨今の大企業の賃上げ余力を報道で知る限り僅かな人件費負担であれば大丈夫と判断していたのだろう。ただ、中小企業までリアルにどこまで賃上げが行き渡ってくるのかまだ分かっていないので、たかが500円、されど500円なのだ。

 

(4)少子化の見えにくい問題点「子持ち様」

このブログをアップした直後に「子持ち様」なる言葉を知った。子どもが少ないから少子化対策が必要なのは国として必要。でも、子育て中の女性育児していない女性が一緒に働く職場では別の問題が起きているのだという。

「子どもが急に熱をだした」など子どもにまつわる突発的な事情で、子育て世代が急に休んだり早退してしまう場合があるのだ。そうすると育児していない女性社員に業務上の負担が掛かってしまう。男性社員は「職場全体でフォローしていきましょう」と励ますが、自分達がフォローすることはなく「後は君たちで上手くやってよ」と逃げてしまうのだろう。そこまでTV番組で伝えていなかったが、サラリーマンしていた経験がある人なら誰でも容易に分かるだろう。

そうなると女性社員同士で彼女の仕事を残業してカバーする事になる。早退する女性は「いつも悪いわね」と言葉を残して去る。笑って「いいわよ、大丈夫だから」と取り繕ってみたところでその度にストレスが溜まっていくだろう。そのハケ口のない不満が澱のように積み重なっていく。それが、ネット上の「子持ち様」という言葉に表出してきたのだろう。

この問題は表面化しにくいだけに、顕在化させること、そして解決に向けたアクションを始めることが遅れがちになりそうだ。仮に少子化問題をFPが得意なカネで解決できたとしても、それはマスの話。職場に不満が鬱積しないようなミクロのレベルで目配りが必要なのだ。

 

(5)年金問題の論点整理

この記事では納付期間延長と少子化負担金の2つについて取り上げた。勿論、他の課題もある。

<5/11日経より>

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例えば標準報酬月額の上限(現在は65万円)の引上げは受給レベルの点では不要と思うものの、税を含めた負担割合の不公平感という観点ではアリだと考える。

※参考ブログ:所得別の社会保険料の負担割合について

hassan01.hatenablog.com

 

【2024.5.10訂正】
・タイトルを分かりやすく変更しました。旧題:社会保険料を巡る話題を切り出しました。また、子持ち様について4項を付記しました。

【2024.5.16訂正】
5/11日経新聞「マネーのまなび」を読んで1項と5項を補記しました。