ある方の相談をベースにiDeCoの受取方法を考えてみた。
観点としては「税制メリット」は本当なのか、である。
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(1)基本的な知識
一時金で受け取れば退職所得となり、年金で受け取れば雑所得になる。一般的に云われているのは一時金がオトク。ただ、住民税や社会保険料も含めてそうなのか、ハッキリと知らなかったので調べてみた。住民税については市役所にヒアリングしている。
(2)結論
個々人の状況によって異なるが、やっぱり一時金が有利だと感じた。年金は雑所得扱いになり、iDeCoも老齢基礎年金、厚生年金も合算されて税額が決まってくるので65才以上は手取り金額に影響してくる。なので、もし年金を選択するとしても、年金受給を始める65才(原則)までにもらってしまう事をオススメしたい。現実には、さらに社会保険料も考慮する必要がある。
細かい点だと、金融機関によっては年金として支払う毎に数百円の手数料を徴収しているので、もし5年10年と毎月受給する事を考えると、手数料だけでもバカにならない。
(3)EETの罠
iDeCoに関してEETと言う略号がある。資金を拠出する時には非課税(Tax Exempt)、運用益にも非課税(Tax Exempt)、でも受給時に課税(Taxed)。ただ、ここでビックリ!
有価証券の譲渡益ならば当たり前に利益に対して課税されるのに、iDeCoは運用益に課税されるわけではなかった。総額に課税される。確かに拠出時に課税されていないのでそういう解釈になるのかも知れないが、退職所得(退職控除を引いて1/2した金額)課税されるのは思ったよりダメージが大きい。
所得税は通常の累進課税の税率を課されるので、一般には5~10%ではないか。住民税は市町村分と都道府県分で合わせて10%の一律課税となる。
例: 勤続10年で1000万円を受取る
退職控除=40万×10年=400万円
課税所得=(1000-400)×1/2=300万円
所得税=300万×10%-97,500=202,500円
住民税=300万×(6%+4%)=30万円
手取り=1000-(20.2+30)=約950万円
(4)退職控除金額をなかなか増やせない
退職控除がなかなか増えない理由の1つが勤続年数の問題だ。
上の例では勤続期間を10年とした。これが短いのではと思われた方もいるのではないか。ただ、ご自身でiDeCoに加入した方は今のところ殆どが加入10年未満ではないか。
また、企業でDC制度をずっと続けられていた方であっても、この制度がスタートしたのが確か2005年くらいであり、最長でも20年くらいなので間を取って10年で例示したのだ。勿論、旧来の退職金制度・適格年金制度から残金を移管されていれば、勤続30~40年となり、退職控除の年70万円(勤続21年目以降)の枠を有効に使う事ができる。
(5)問題提起
2点挙げておく。
① 拠出金まで課税対象にするなら
EETが適正な課税ルールなのか。拠出時と運用時に非課税なのは分かる。課税繰り延べ効果があるのはホントだが、拠出金額と運用益を区分けして管理していない事に違和感を感じる。現在の相場環境であればレアケースながら、今後は相場環境によって受取タイミングでマイナス運用に陥ってしまうケースもあるだろう。それでも全体金額に対して課税されるのが正しいと言えるのか。
これは、かつて有価証券の譲渡益課税で選択制があった当時に戻って対策を考える事が必要ではないか。かつて、売却額の20%(当時は10%だったかも)か売却代金の1%(みなし売却益を5%としてその20%課税)を選ぶ事ができた時代がある。これは取得価額を把握できないケースをフォローするもので、現在のiDeCoも拠出額と運用損益を分離して把握できていないので、課税の不公平に関する問題が生じていると言えよう。
確かに、単一制度を運用しているだけなら拠出額と運用損益は定期的に通知されてくるし、ネットで随時確認できる。ただ、サラリーマンが自営業に転じた場合など、移管前の情報は総額で繰り越されているだけので、全ての加入者でクリアではないのだ。
② 退職控除枠の運用は適正か
退職金制度の切替でDC制度に移管した場合に、同じ企業に勤めているのに勤続年数がリセットされてしまうのは制度上の考慮不足と言えるのではないか。
これは会社員以外がiDeCoに拠出している場合にも当てはまる。年81.6万円まで拠出できる事は運用規模を増やしておくのにメリットある。ただ、拠出年数が20年未満であれば、退職控除額は年40万円しかないので、仮に81.6万円を拠出して運用損益を考えないと(81.6-40)÷2=20.8万円が元金なのに課税対象額とみなされてしまう。これはどうにも不幸な現実だ。
【2024.10.7追記】問題提起の文章を一部加筆しました。