H’s ある株ホルダーのFP日記

株ホルダーとして考えた事、FPとして伝えたい事を不定期に書いていくつもりです。

国民基礎年金は消費税で賄うべきか

現在、国民基礎年金の原資はその半分を保険料負担で、残り半分を税金(国庫負担)で賄っている。その現状に対して、国民年金を満額受け取れない人がいるので財源を変更してしまおうって議論だ。これも、最近の自民党の総裁選で話題に上っていた件だ。

私も会社を辞めた後で初めて年金制度を理解できるようになったが、本日はFP的にこの件について考えてみよう。

(1)現状の制度を整理

国民基礎年金はサラリーマンも自営業者も保険料を支払っている。サラリーマンは厚生年金保険料として1階部分(国民基礎年金)と2階部分(厚生年金)の違いを意識する事なく給与から天引き(源泉徴収)されている。自営業者や学生は毎月17,000円くらいの保険料を納めている。これが20~60才の義務となっている。支払い困難な事情があれば、免除や猶予措置も用意されている。

<新聞記事より>

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国民基礎年金の支給は60~64才までに特別支給されている分は過渡期対応なので脇に置いておくと、65才以上となっている。もし20才から60才までの40年間に満額を納付していればそれが、年額で約78万円(月額で約6.5万円)が支給される事になる。ただ、自分が積み立てたお金を将来受け取る、そんな積立方式を採用している訳ではない。あくまでもその時代の若者(20~60才)の保険料を65才以上の高齢者に対して過去の保険料納付実績に応じて支給していく世代間扶助の仕組みだ。世代間扶助と言えば聞こえはいいが、この賦課方式って実は自転車操業と言えなくもないのが国民年金制度だ。

自営業者はここで終わりだが、サラリーマンしていれば、そこに厚生年金が上積みされるので額面で月額15~20万円くらいになる。正確に言えば年金収入は雑所得になるので所得税が天引きされる事になる筈だ。厚生年金の仕組みも世代間扶助なのか、それとも積立方式なのか正確に把握していないので悪しからず。

自分の場合、大学生の頃にそんな制度だと知らなかったし、そもそも当時は保険料支払い義務もなかったので20~22才の分を払い込んでいないし、免除制度を適用した時期もある。ただ、それを受取れる年齢に達していないので、需給に関して実感を持って語る事はできないが、年額78万円はおろか70万円にも届かない。

(2)満額受給されれば暮らしていけるのか

国民基礎年金が満額(年に約78万円)受給されれば、それでラクに暮らしていけるのか。まあそんな事はない、生活費の一部として消えていくだけだろう。そもそも老後の生活を完全に保証するための制度ではないと認識している。もしそうであれば、自営業者に2階建て部分を積み立てておくように若い頃から国が促しておくべきだ。

あくまで、国民基礎年金は老後の生活資金の一部として導入されたものだと理解している。かつてもう10年以上前になるが、そんな経緯を時の政治家がTVで語っていたのを思い出す。

(3)消費税を財源にする事が妥当なのか

だから、今回の自民党の総裁選でポッと出てきた話は、「最低限の保証として年金を配る」って発想であって過剰サービスのように思えてならない。一時期ベーシック・インカムの議論が出ていたが高齢者向けベーシック・インカムと言えなくもなく費用負担が嵩みそうだ。

社会構造の変化に応じてそれが妥当なら検討していけばいい。ただ、その場合に以下の視点も併せて整理する必要があると考える。

<a>生活保護雇用保険など他の扶助に関わる制度との整合性

手厚い制度を整備すると、どうしても既存の制度と重複感が出てしまうし、何らかの調整が必要になるだろう。某TV番組で竹中平蔵ベーシック・インカムを語っていた時にも低所得(or非課税)世帯に限定して毎月7万円程度を配るように聞こえた。その裏側ではどうやら健康保険制度も消えていくようなニュアンスがあり、表面だけを以って賛否を判断するのは如何にも危険な匂いがしたのを覚えている。

また、手厚い制度が整うがために一部でモラルハザードが広まる事はないのか、そうした側面でのリスクも懸念する。

<b>消費税は何%程度にアップすれば制度を維持可能なのか

消費税を財源にした所で消費税をその分だけアップすれば、結局のところ政府と消費者の間でお金が行ってこいで回るだけで実効性は薄いように思えてならない。

<c>これまでに20~60才の人が納付した保険料をどのように精算するのか

制度を一新する以上は、既存制度を不公平感なく解体していく必要がある。例えば、一般企業が厚生年金基金や適格年金制度を廃止してDC確定拠出年金に移管した際にも、既存の制度で積み立てたお金は全て従業員に返還された。個人的にもそうしたお金を受取った(or新制度の基金に初期移管)事がある。これは国民基礎年金の保険料に関しても同様のプロセスが不可欠だと考える。制度の変更を軽々に語る人には保険料を支払って来なかった人が多い。得てしてそんなもので、私の知り合いにもそうした暴論を一方的に熱く語る者がいた。

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いくつか論点を挙げてみた。拙速な提案はどうしても眉唾に疑ってしまうのは悪い癖かも知れない。

ただ、そもそもの所で年金制度は信頼できるのか? あるいはその逆に「100年堅持できる年金制度」って標語もある。どちらに信憑性があるのか、もっと現実とそこに潜んでいる問題点を今後もしっかり把握していく事が必要だろう。ここ数年でパート従業員などに厚生年金の加入が広がっていった点も、年金財源確保の観点、対象者拡大に伴う個人の手取り収入減(&将来の年金増)、企業の負担増などいろいろな変数が蠢いていた筈だ。