H’s ある株ホルダーのFP日記

株ホルダーとして考えた事、FPとして伝えたい事を不定期に書いていくつもりです。

「N分N乗」で課税する事は少子化対策に有効か

政治家の頭の中ってどうなっているのだろうか? 唐突に所得税の計算で「N分N乗」が降って湧いた事に驚いたのが正直な所だ。

何も「N分のN乗」は新しい話でもない。現在の所得税の計算プロセスにも登場している。ただ、それが王道ではなくて、所得種別が10種類くらいに分かれている中でも山林所得(分離課税)に限定されているもので「5分5乗」と呼ばれている。

山林所得を計上できる人はかなり限定されている。まずは先祖代々ヤマを所有している人で、かつその年に売却益を得られた人に限られているためだ。もちろん私はそのどちらにも該当した事もない。

FPの勉強をしていると所得税計算ロジックを復習するので知識として知っているものの、敢えてそうした計算をする理由も把握できていない。おそらく長い人生において滅多にない利益なので、高い税率を負荷しないように配慮したものではないか。

以下では気になる問題点に触れてみよう。

(1)高額所得者優遇の惧れ

今回の話はその「N分のN乗」を給与所得など総合課税のプロセスにも適用しようとするものだ。確かに、子供の数が多い世帯で低い税率を適用するので税負担の軽減に繋がる。でも、既にTV等でも報道されているように、一般の給与所得者の恩恵以上に、扶養家族の多い高額所得者で減税効果が大きい。それは所得税の累進税率表を見れば明らかだろう。

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大抵のサラリーマンは税率10%か20%の範囲に収まっているはずだ。なので、子供が何人いようと減税効果は50%だろう。でも、高額所得者であれば、それ以上の圧縮効果がある。

(2)課税単位の変更と手続きの煩雑さ

しかも、新聞記事を読んでみると、夫婦共働きでそれぞれが納税者であっても、今後は1世帯として所得税を計算するように読めた。これはどこまで波及効果があるのか読みにくい。もし共働き夫婦であれば妻の所得税は年末調整でゼロにするのか? 夫の年末調整で妻の所得を合算するにはタイミングが合わないので、これまで確定申告不要になっていた世帯でも申告必須になるケースが多々出てくるのではないか? こうしたプロセス変更に伴う納税者と税務署双方の負荷増大を考慮したのだろうか?

(3)社会保険料も含めた全体感

実は世のサラリーマンの税負担はそんなに大きくない。正確に言うと、税負担よりも社会保険料(健康保険と厚生年金)の控除額の方が大きくなっている。なので、所得税を見直す事で妙な達成感が生まれる事はあっても、負担の本丸である社会保険料にスポットが当たらないのではないかと懸念する。

社会保険料は上限が決められているので、高額所得者ほど負担感は大きくない。税と社会保険料を一体として不公平感の解消を図るのが、一般的なサラリーマン社会に対して望まれる施策ではないか。

【1つの提案】

前項に関しては素人の限界を超えているが、給与所得者の所得税に関して提案するとしたら、やはり扶養控除額の見直しが妥当だろう。

現在、基礎控除は48万円、配偶者控除や扶養控除(16才以上)は通常38万円となっている。1人家族が増える事で生活費はどのくらい増えるのだろうか? 勿論、ここで実費相当額を控除すればいいと言っている訳ではない。でも、控除金額こそ扶養者の数に応じてストレートに反映できる数字であり、この変数を動かすのが現実的ではないか。

他に敢えて16才以上の子に限定しないで、昔のように赤ちゃんが生まれた瞬間から扶養控除の対象に加える案もあり得るが、これは扶養控除の年齢制限を変更した経緯(おそらく民主党政権時に子供手当が出てきた当たりではないか)を把握していないため軽々には論じられない。

<扶養控除>

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その結果として国全体の所得税額に増減ないように税率を若干プラス方向に調整する事で、単身者やひとり子供の世帯で増税となる方向で負担を分かち合う事ができるのではないか。一部の野党も揃って「N分のN乗」言い出した事は、およそ税の仕組みが分かっている専門家とは言い難いと思うのだ。

※画像はいずれも国税庁HPより転載

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm